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  • #22:「次に来るコンセプト」を発見しよう。さまざまな人からの刺激と、時代を敏感に受け止めて。

情熱主義

#22

「次に来るコンセプト」を発見しよう。さまざまな人からの刺激と、時代を敏感に受け止めて。 工学部 電気電子工学科 加納 善明 「次に来るコンセプト」を発見しよう。さまざまな人からの刺激と、時代を敏感に受け止めて。 工学部 電気電子工学科 加納 善明

モータは発明から200年余を経ており、その歴史ゆえに「鉄と銅と磁石でつくられるローテク(古臭い技術)」と見なされることがある。
しかし、実はハイブリッド車・電気自動車をはじめ、産業設備、家電、情報機器など、現代社会にモータは欠かすことのできない存在だ。
このモータに学生の時から取り組み続けてきたのが、電気電子工学科の加納善明先生だ。
モータ研究は、鉄・銅・磁石の各コンポーネントを限られた空間の適所に配置して、用途に求められる性能を限界まで追求する戦いだ。
地道な努力と、時に風呂場などでリラックスしている時に思い浮かぶというアイデアが、その足がかりとなる。
電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率100%に迫るモータへ、一歩一歩近づけていく努力が今、実を結ぼうとしている。

モータが、日本の産業界の未来をつくる。

中学生の時、加納先生にはとりあえず「手に職」をつけていち早く自立したいという思いがあった。中学校卒業後に進学したのは、高等専門学校。工学の知識・技術を身に付け、実践的技術者を養成することを目的とした「高専」と言われる5年制の高等教育機関である。ここで「電気」を学んだ。5年次の卒業研究で取り組んだのは、自動車関係のセンサーだった。ここで研究のおもしろさに引かれ、もっと研究に没頭したいと考えて、大学への編入学を決意した。

加納先生

進んだ大学は半導体の先進的な研究拠点だった。当然、加納先生も、半導体の研究に取り組むことになった。半導体は1980年代半ば、「産業のコメ」と呼ばれ、日本の半導体生産はその最先端を走っていた。しかし、その後諸外国に追われて競争力が低下していった。その要因を加納先生はこんなふうに分析する。

「半導体はすごくきちんと理論ができています。しかし理論が明確になっていると、後発メーカーは比較的容易に先行者に追いつくことができる」

大学院へ進み、そこで出会ったのは、指導教員が手掛ける「モータ」の研究だった。
驚いたのは、モータには電気エネルギーを自由に加工するパワーエレクトロニクスの技術、電磁材料技術、電磁現象を利用した技術などのさまざまな技術が入り込んでいること。モータ研究の裾野にはさまざまな技術が無限に広がっているように感じた。
さらにハイブリッド車・電気自動車に使われている永久磁石モータには高性能な磁石が使われているが、半導体と違って磁石には「わからない、解明されていない」部分も多い。
加納先生は、そこに魅力を感じた。モータに求められる性能は、モータが搭載されるアプリケーションによって全く違うため、1つよいものを設計すれば、他にも適用できるということではない。答えがあるようでないような、そこがおもしろい。さらに、きちんと理屈がわかっていない新しい磁石材料をうまく使いこなすことができれば、他者が追いつくことの難しいモータ技術を開発できるのでは、と考えた。

次に来るコンセプトを見つけ出すことが、若者の使命だ。

加納先生

加納先生は、企業が求める人材を育てるには「産学連携」こそが、最も有効である、と断言する。大学院生時代に産学連携の旗を掲げる研究室で鍛えられた影響もある。
また、特に理系の場合、多くの企業人は、大学教育の中で何を一番高く評価するかといえば「卒業研究」であるという。大学の講義では、答えのある問題が出題され、それに対する答えを授業で学んだことを基に解答する。これに対して卒業研究では、大なり小なり課題が与えられるが、それに対して自分なりのプロセスを示し、その中で必要な足りない知識を勉強してずっと一本道を通してやっていく。
この経験こそが、研究者・技術者としての第一歩を踏み出すための基礎になる。

加納研究室ではこの信念に基づいて、多くの企業との共同研究に積極的に取り組んでいる。「産学連携」は、学生の就職への糸口になることもあるし、企業の人と顔を突きあわせて議論することを通じて、今、産業界には何が求められているかを肌で感じることができる場にもなる。
こうした産学連携の学びを通じて、加納先生が卒業後の学生に期待するのは、「問題を提案する能力」だ。卒業研究を通じて養われた問題解決能力の、その先にある力。例えば10年・20年先、おそらくこのようなものができているはずだから、それを実現するにはこの技術がボトルネックになり、これに対して是非とも今から技術開発しなければならない。こういった未来を見据えて必要な技術開発を提案できる人材が必要になってくると考える。
それは、「次に来るコンセプト」を見つけ出すことだ。さまざまな専門家、研究者、企業人と出会い、情報を共有し、「次に来るコンセプト」を見つけ出してほしい。「この先、こうなったらいいな」という希望に満ちた発想こそが若者の強みなのだから。

これからの時代、事務処理的な仕事はどんどんAIが担うようになるだろう。だからこそ新しいことを考え、提案する人が、今後の社会で必要になってくると考える。
今、時代の転換点を見据えて、加納先生の研究・指導は続く。

妥協することなく、最後の一瞬まで最高の論文をめざせ。

加納先生

先生の講義は「余談」や「雑談」が多い。本論には興味を示さない学生たちも、先生の余談や雑談が始まると、一斉に耳を傾ける。

例えば「エネルギー変換工学1」では、変圧器について学ぶ。変圧器とは、電圧を変えるための機器で、発電所でつくられた電気を家庭やビルなどで利用するために必要不可欠な機器のこと。しかし教室で変圧器の説明をしても、学生は上の空だ。そこで先生は、現実の電柱や電線、変圧器などを示して、今、学んでいることがどこで生きているのか、どんなふうに役立っているか、という話をする。一見無駄に思える余談が、現実と学びを結びつける。そして、初めて学びが生きてくる。余談や雑談が要らないなら、通信教育でいい。そこには生きた学びはないのではないか、と加納先生は思う。

だからといって加納先生の研究室は、いつも和気あいあいとして雑談で溢れているかといえば、そうではない。論文発表の直前、加納研究室はまるで戦場の様相を呈する。加納先生は、論文発表について特に厳しく指導する。決して簡単にOKは出さない。妥協はしないし、学生にもさせない。学生たちは先生の厳しい指導に右往左往しながらも、体力と気力の限界まで、論文のレベルを上げていく。論文の完成度は、発表を聞けば、どの程度力を注いできたかということがすぐわかる。論文は、学生の本気度を極めて正確に表す。

適当なところで「まあ、いいや」と投げ出すのではなく、妥協せず、最後の最後までちょっとずつでも論文の質を高めて最高の論文をめざせと、加納先生は言い続ける。

「先生に追い込まれ、さんざん言われたが、自分はそれに耐えることができた。がんばって、自分の中では今できる最高のものをつくって発表できた」。そんな体験と自信の記憶が、学生をこの先、未知の地平に飛び出させる滑走路になると、先生は信じている。

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