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  • #21:多くの「人」に学び、「どう生きるか」を考える。大学の4年間は、そのためにある。

情熱主義

#21

多くの「人」に学び、「どう生きるか」を考える。大学の4年間は、そのためにある。 教養部 数学教室 上野 康平 多くの「人」に学び、「どう生きるか」を考える。大学の4年間は、そのためにある。 総合情報学科 経営情報コース 小澤 茂樹

経営情報コースの小澤茂樹先生の実家は生花店を営んでいた。
両親は日々働き、子どもと遊ぶことはほとんどなかった。先生も子どもの頃から配達や露天での販売、店番をさせられた。「商売屋の子どもは親の仕事を手伝って当たり前」と頭ごなしに言われ、反論する余地がなかった。商売の手伝いをする姿を学校の友達に見られるのは恥ずかしく思っていたし、子どもを当てにしなければ商売ができない両親を情けなく思った。両親の職業のせいで、自分は不幸な境遇にあると思っていた。だから、生花店の仕事は好きになれなかったし、継ごうと思ったことはなかった。

一方で、花を買いにくるお客さんを観察して、「どんな人なんだろう」と思いを巡らせることは、そんな境遇の中の楽しみだった。そうした中、気がついたことがある。見るからにお金持ちといった身なりの人が、子どもだからと見下し、少額でも値切りをしたり、商品のクレームを言う場面を何度も見た。その反面、古ぼけた身なりの人が、「寒いから飲みなさい」と温かい飲み物を渡してくれたり、ねぎらいの言葉を掛け優しく接してくれることもあった。人は着ている物や、見た目だけではわからないということを子ども心に実感した。
「人を見て学ぶ」というのは、それ以降小澤先生の生きる教訓となった。

大切なのは、信頼され、尊敬される人間性

実家の商売や両親を間近に見て、子どもの頃から大学に進学し勤め人になりたいと思った。浪人を経て大学に進学したものの、その直前に父親が亡くなり、経済的な苦労に直面した。奨学金で何とか大学には通えたが、周囲の友達と比べると貧相だった。「将来はお金で苦労しない生活がしたい」と毎日考え続けながら、大学生活を送った。

小澤先生

お金で苦労しない生活を送るためにはどうすべきか、小澤先生が考えたのは、大学院へ進むことだった。大学院へ進学すれば、高い給料がもらえる企業に就職することができ、今の経済的な苦労から逃れられると思った。しかし、大学時代、ほとんど勉強せず、成績も芳しくなく、大学院に進学する自信は全くなかった。大学のゼミの先生に相談してみると、「そう思うのだったら、明日からとは言わず、今から勉強しなさい」と言われた。その先生は、当時の皇太子殿下の家庭教師を務めた先生だったが、偉ぶることなく、常に温和で優しく接してくれた。他の先生にそんなことを言われても勉強しようという気にならなかっただろう。でも、なぜかその先生の言葉はスッと受け入れることができた。

その後、進学のための勉強を始めるが、教科書を読んでもわからないことばかりだった。そんな小澤先生が基本中の基本の事柄を質問しても、その先生はばかにするようなことは一切言わなかった。「人は誰でも知らないことがある。それは恥ずかしいことではない。しかし、知らないままにしていることは恥ずかしいのだよ」と励まし、丁寧に指導してくれた。また、「努力は必ず報われる。僕に騙されたと思って勉強してごらん」とも言ってくれた。皇太子殿下を教える先生が、お金もなく勉強もしなかったこんな自分に対してでも、それをとがめることなく、見下すこともなく、丁寧に伝えてくださった言葉だったからこそ、「今からでも遅くない。勉強しよう」と思えたし、「この先生のことを信じてみよう」と思えた。その後、小澤先生は、真剣に勉強と向き合うようになった。

そんな先生に言われた言葉だからこそ、その言葉は「生きた言葉」だったと思う。大切なのは、「何を言ったのか」ではなくその言葉を「誰が言ったのか」なのだ。つまり、言葉を伝えるうえで大切なのは、信頼され、尊敬される人間性を持った人になることなのだ。教員になった今、「この人の言うことだったら聞いてみよう」と学生に思わせる人になるために、日々精進しなければならないと小澤先生は思っている。

人から学ぶということ

小澤先生

大学院の修士課程を修了後、研究所で働く傍ら、大学の非常勤講師を勤めた。ここでさまざまな学生と関わった。1年次の時、この学生は大丈夫だろうか、と感じた学生が、4年次になると見違えるように成長している。その様子を目の当たりにして、「人の成長は美しい」と実感した。学生たちの成長をサポートし、その成長を共に喜びたいと思い、大学の教員になりたいと思った。働きながら博士課程に進み学位を取得することは決して楽ではなかったが、明確な目標ができたからこそ楽な道ではなく、あえて困難な道を選択した。

今、教える立場になって思うことは、人が学ぶことの根源は「人から学ぶ」ということだ。機械からではない。また、人の成長とは知識やスキルの獲得だけではない。小澤先生自身、子どもの頃から多くの人を見て、人と関わることで成長することができた。今も学生を教えているつもりが、実は学生に教えられることが日々ある。人は人によってしか、成長できない。とは言え、教える人も人間だからこそ必ずしも完全ではない。間違えることもある。だから、それも認めたうえで、人と人とが向き合うことこそ、本当の教育なのではないかと思う。

「人」とのつながりは「社会」とのつながり

小澤先生

小澤先生の研究室の卒業研究では、卒業論文を書く時に本やネットで調べるだけではなく、実際に自分で聞いてくる、自分で現場に行って調べてくることを課する。真の知識は、経験や体験に裏付けされた知識であると考えているからだ。

いろいろな社会人に話を聞いてくる、会話をする、また、自ら汗を流して情報を得てくるということを通じて、「社会」とつながり、「社会」を肌で感じさせる。さまざまな人との出会いを通じて、どこか遠い別の世界の話だと思っていた問題にリアリティーが湧いてくる。「そこで自分が何を思い、どう行動するか。どう生きるか」。そうやって一つ一つの体験から、「自分」を形成していくことこそが、豊かな人生の第一歩だと小澤先生は思う。

人から学ぶ、「どう生きるか?」

人として成長するためには、挑戦して失敗することが欠かせないと小澤先生は考えている。学生にも「失敗することはリスクではない。むしろ何もしないことがリスクだ」と、いつも言う。もちろん失敗することが目的ではなく、ただ失敗するだけでは意味がない。失敗した原因を見つめ直し改善しようとする過程が成長をもたらす。だからどんな小さなことでも、なぜだろう、こうならいいのに、こうあるべきと思ったことを追求してみよう。物事を変える努力をしてみよう。生きていく中では、うまくいくことの方が少ないかもしれない。でも失敗したとしても何もせずに見過ごしていた時とは物の見え方が違うだろうし、関わって経験したことで自分の意見が言えるようになる。また何かを働きかける過程は、多くの人との出会いをもたらす。叱る人、慰める人、一緒に考えてくれる人。その出会いがまた成長を促す。

そして、何度失敗しても、最後に成功するという体験が得られれば、学生たちは「自信」を身に付けることができる。たとえ成功できなかったとしても、一生懸命こだわってやり抜いた経験は次への糧となる。そういう経験を積み重ねることが大切だ。

小澤先生

「“どうしたら幸せになれるのか”“どう生きればいいのか”なんてことは、総理大臣だって的確に答えられないですよ」と小澤先生は笑う。知識やスキルばかりが偏重されると、学生の視野が狭くなる。極端に言えば、知識やスキルの多くは、後からでも身に付けることができる。30~40歳になっても、自分が必要だと思えば学べばいい。決して遅くはないはずだ。それよりも、小澤先生が学生たちに伝えたいこと、それは「社会で起こっていることに目を向けること」「その中で自分はどう考え、どう生きるか」。生きるうえでの行動の根源となる自分の考え方、哲学を大学の4年間で少しでも見つけて欲しい。

若く、適応力も柔軟性も高く、制約に縛られることも少ない大学での4年間が、学生たちを見違えるように成長させる。その美しさに、小澤先生は今日も目を細める。

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