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  • #16:建築への思い、エネルギーのバトンを、学生たちに手渡すために。

情熱主義

#16

建築への思い、エネルギーのバトンを、学生たちに手渡すために。 工学部 建築学科建築専攻・インテリアデザイン専攻 宇野 享 建築への思い、エネルギーのバトンを、学生たちに手渡すために。 工学部 建築学科建築専攻・インテリアデザイン専攻 宇野 享

建築学科の宇野享先生にとって建築とは。
「使っている人たちが笑顔でいてくれること、それが一番うれしい」。
その笑顔のために、建築は何ができるのか。今までにない、既成概念にとらわれない、新しい価値観を建築は提案できるのか。先生はそのことを考え続けている。現在もなお、暗中模索は続く。
先生が建築家としてこだわっていること。それは「アクティビティ」だ。
建築における「アクティビティ」とは、建築が人の活動をどれだけ豊かにしていけるか。その建築がどれだけ人の活動をサポートできるかということ。
その思いを学生たちに手渡すために、宇野先生は今日も学生たちと向き合っている。

「建築」を今まで続けてこられた訳。

高校生の頃、宇野先生は、アートに興味を持っていた。理数科だったこともあり、先生から、「理数科なら建築という選択肢もあるよ」と勧められ、それがきっかけで建築学科に進んだ。

しかし、入学してみたものの、なかなか建築の勉強になじめない日々が続いた。正直なところ、あまりおもしろいとは感じられなかったのだ。好き勝手にフリーハンドで図面を描いたり、構造力学的な制約を無視した模型を作ってみたり。担当の教員からは「これは建築じゃない」といつも否定されていた。当然、成績は低空飛行を続けた。そんな日々に転機が訪れたのは、3年生になり、非常勤の先生が入れ替わり、別の先生が教壇に立つようになってからのこと。今思えば、そうそうたる現役の建築家だった。

宇野先生

そんな先生たちが、宇野先生の作ったものや描いたものを見て「これ、めちゃくちゃおもしろい!」と言ってくれたのだった。やりたいことをやりたいようにやらせてもらえて、それをおもしろいと認めてくれる、そんな先生に出会えた瞬間だった。

「建築がおもしろいなと思えるようになったのは、それからです。このまま建築をやっていきたいと、その時初めて思えました。こうした先生方に出会えなかったら、多分建築はやっていなかっただろうと思います」。

先生は卒業後、恩師の建築設計事務所で設計を続けた。卒業して間もない若者に、大掛かりな案件がいきなり3件も任された。先輩のやり方をこっそり盗み見たり、先生にさんざん怒られたりしながら、悪戦苦闘した。
「でも、不思議と辞めたいとか逃げ出したいとかは思いませんでした。建築のことしか考えなかった。全ての思考は建築に向けられていました」。
それは、「建築はおもしろい」と思えた瞬間があったからに他ならない。その体験をこそ、先生は学生に伝えたいと思っている。

建築のおもしろさとの出会い、そして誰のための建築か?

「建築はおもしろい、と思えたら、あのときの僕のように学生もがんばることができるはずです。全ての時間を建築に費やすようになる」。
おもしろいと思える瞬間というのは、どんな時なのだろう。宇野先生は、こんなふうに言う。
「最初はそんなにハードルの高い話ではありません。設計は自分の頭の中で描いた空間を自分の手でカタチにしていくんですが、まずはラフスケッチや模型に落とし込む。大学1,2年生の時は技術が身に付いていないから、それがなかなか自分のイメージ、本当につくりたいと思うものにたどり着けない。でも四苦八苦しているうちに、技術が追いついてきて、やっとつくりたいものができる。この時、自分と建築との距離が一気に近くなる。この瞬間が一番、充実感がある」。

宇野先生

そして、本当に大切なのは次のステップだと先生は言う。
「思いどおりのものができるようになると、次は、誰がその建築を使う主役なのかと考えるようになる。つまり、建築を使う側に目が向く。その人たちが本当に求めている建築をつくろうという思考になる。その時に初めて建築は社会性をもち、文化となる。建築家が主役の建築はつまらない。つまり、他者に対するイマジネーションですね。それが、次のステップへの足がかりになります」。
まず自分がおもしろいと思える瞬間があって、次に人が喜んでくれることが自分の喜びに変わる。
「それを学生たちにわかってほしい。その気づきが大事なんじゃないかなと思います。これはたぶん建築だけでなく、あらゆるモノづくりに共通して言えることだと思いますが」。

諦めなければ、絶対、道はどこかにつながる。

建築はおもしろい、そして人に喜んでもらうことができる、そう感じる瞬間のために、学生は何をすればよいのだろう。
「まずは諦めないこと、忍耐力を身につけてほしい。簡単にやめない。絶対に道はどこかにつながっています。僕自身、何度も何度も諦めかけて、回り道をしてきた。多くの人は、そうやって何かを諦めてきた。でもだからこそ、これだけはというものに出会ったら、しがみついてほしい。あきらめないでほしい。次のステージに行くために」。

宇野先生

宇野先生は、頑張るためのエネルギー源を学生たちに根づかせたいと思っている。エネルギーの根っこを、先生は学生たちに与えたいと思っている。
技術的なことや、表現のテクニックは、すぐカバーできるようになる。エネルギーの根っこさえあれば、どんな社会に出ても、どこへ行っても、フロンティアになれる、と先生は信じている。新しい世界を切り開いていくこともできるし、何をしていても楽しめるはずだ。たとえ建築でない世界に行ったとしても自分なりに楽しみを見つけて、それをまた掘り下げていくことができるようになるだろう。そのエネルギーの根っこというバトンを、どうしたら学生に手渡すことができるのだろうか。

「僕は学生たちに質問を繰り返します。それも結構しつこいくらいに。答えを教えるのではなく、なぜそう思ったのか、あるいは、そこに住む人たちにとって本当に喜ばれる場所になるのかなど。そうやって質問を繰り返すうち、学生なりの回答が出てきます。その時学生が、自分でハッと気づいた瞬間に何かコツをつかんでくれるんじゃないかなと思っています。嫌がる学生もいるかもしれないけど、そうやって学生にはとことん寄り添ってるつもりです」。そう言って先生は笑う。

自分の中に強い核をつくれ。

宇野先生のもとで学んだ学生の中には、自分の限界を決めない人が増えているという。語学が堪能なわけではないのに、海外の建築事務所に就職した卒業生もいる。とりあえず、思ったことを実行する、頭で考えるのではなく体で考える、そんな学生が、少しずつ増えてきた。あらかじめ、自分の能力の限界を決めたり、人と比較し過ぎたりすると、心も身体も縮んでしまって、行動することを諦めてしまう。自分は自分のままでいいんだと気づき、自分なりに全力を尽くす学生が増えてきた。それは先生にとって実に喜ばしいことだ。

建築をめざす若者は少なくない。オープンキャンパスなどで、先生に「どうしたら建築家になれますか」、と問いかける高校生もいるという。
「建築家になるためのトレーニング方法は、いっぱいあります。まずは好きな建築や空間、街などを実際に体験してみる、なぜ好きなのか考える、調べる。そしてそれを自分の言葉で伝えられるようにする。でも一番大切なのは、本当に建築家になりたいと思っている人は、「なりたい」ではなくて、「なる!」と決めること。決断して、それを周囲に宣言することです」。
その決断の強さが、諦めない気持ちにつながり、宇野先生からのエネルギーの根っこを受け取る器になる。

「大同大学の学生は、すごく素直だと思います。いろいろな先生からのアドバイスを実行に移すことができる。吸収できるということですね。それは伸びしろが多いということです。それが大同大学の建築学科の良さになってきたと思います」。
アドバイスを素直に受け入れ、吸収し、建築だけではなく、文学・芸術・音楽・デザイン・ファッションなど、ありとあらゆることを学んで、自分の中に強い核をつくれ、宇野先生はそう期待している。

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