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  • #03:「貪欲であれ」その生き様がモノづくりに表れる

[情熱]主義

#03

「貪欲であれ」その生き様がモノづくりに表れる 情報学部情報デザイン学科 杉本 幸雄 「貪欲であれ」その生き様がモノづくりに表れる 情報学部情報デザイン学科 杉本 幸雄

「現場」で実社会の厳しさと向き合った。

杉本 幸雄先生は、学生時代は好きな映画ばかり見ていた。当時はやっていた「アメリカンニューシネマ」の退廃的だが現実の世界を憂う視線や、報道カメラマンの作品が示す不条理な現実に共感を覚えていくうちに、自分が本当にやりたいことは何かを考えるようになり心の中にどこかモヤモヤした気持ちを抱くようになった。だから、大学を卒業はしたけれど、せっかく決まった内定先に就職する気にはどうしてもなれなかった。
そんな時、なんの経験もない若者を拾ってくれた小さな映像制作会社があった。
それがドキュメンタリー作家としての顔を持つ、杉本先生の出発点となった。
ただ映像が好きだった。その近くで生きていたかった。撮影や録音、演出などの技術はもちろん、映像と向き合う姿勢も、「人に伝える」ことの難しさも全て「現場」で学んだ。

「場数」を踏むことでしか得られないものがある。

教える立場となった今、先生の指導方針の根幹にあるのは、学生たちを「現場」へ押し出すこと。
先生のゼミでは、一年を通じて自分で決めたテーマを深く掘り下げながら映像作品を完成させていく。その過程で学生たちはモノづくりの「現場」に立ち、そこで映像制作のスキルだけでなく、映像を制作するための「準備」の大切さと大変さを知る。今、自分が何をしなければならないのかを見極め、指示される前に動く。撮影技術、編集技術だけでは作品を作ることができないことを、身をもって体感するのである。

杉本先生

また、映像制作にはプロのスタッフにも協力を仰ぐ。学生たちはプロフェッショナルと同じ現場に立ち、それぞれが与えられた役割を粛々と遂行するその一挙手一投足をつぶさに観察して、まねることから始める。
また取材が必要ならばどんなに遠くても会いに行く。杉本先生は、「まず相手に会いに行け」とげきを飛ばす。話を聞くためではない。話を聞く前に、まずは自分を知ってもらうためだ。自分はどんな思いでこの取材がしたいのかを、相手にぶつける。自分を信頼してもらわなければ相手は心を開いてはくれない。今はネットでたやすく情報が得られる時代だ。取材相手のことも、ネットで調べればおおよそのことはわかるかもしれない。しかし「それでわかったつもりになるな」と、繰り返し先生は学生たちに言う。なぜなら、「現場」には教科書などはなく、ただ何度も何度も「場数」を踏むことでしか得られないものがあるからだ。

大切なのは、「自分」。自分で考え、行動すること。

もう一つ、先生が学生に要求するのは「関心を持つこと」。これはゼミで制作する映像作品のテーマ探しにもつながる。「今の世の中、何に対しても無関心であり過ぎる」と、先生は思う。ネットの発達により世界中のニュースがリアルタイムに共有できるようになったが、情報が溢れむしろ現実味は乏しい。数あるニュースの中でのたった一つでもいい。「なぜ、こんな事件が起きてしまったのだろう」と考えてみること。自分で考える、自分の好奇心を信じる。もちろん、「あっちに行くといいことがあるかも」というアドバイスはする。あとは「自分で行ってみろ」ということだ。学生に対する過剰な「おせっかい」は、学生たちの自主性を損なうことはあっても、プラスにはならない。

杉本先生

表現者としての「覚悟」。

「貪欲であれ」。学んだこと、現場で見聞きしたこと、何に対しても、貪欲に向き合うことの大切さを先生は伝える。
自分の興味や関心の赴くまま、本や写真、映画、ライブなどをむさぼるように見る、あるいは旅をしたり友人に会ったり。今、学生というこの時しか得られない時間を大事にしてほしい。若いからこそ、吸収力もある。学生時代に吸収したものは、一生の宝ものになる。さまざまなことを考え、つくり出す時の「引き出し」になる。現場で出会ったさまざまな人との縁、自ら考え行動した体験は、全てその人の生き様だ。その生き様は、作品に浮かび上がる。どれだけ全力で物事と向き合い生きてきたか、それはごまかしようがなく作品に出てしまう、と先生は言う。人に何かを伝えるためには技術よりも大切なことがあることを学生たちには知ってほしい。

杉本先生

最後に、どのようなメディアであっても「表現」を試みようとする以上、絶対に「記名」であるべきだというのが先生の強い信念である。つまり表現は自分の「名前」の責任において、なされるべきであり、胸を張れるものでなければならないという思いからだ。
匿名が氾濫するネット社会の中で、あえて自分の名前を出して表現する「覚悟」が、表現する者には求められている。

取材を傍らで聞いていた先生の助手を務める技術員は、「先生が現場に立つと、雰囲気がガラッと変わるんです。ダラダラやっていても、先生の厳しい一言で空気が一瞬にして変わる。その後、ピリピリした雰囲気で現場が動いていくんです。その緊張感に触れることが現場の魅力だと思います」と話す。
一見、ひょうひょうとした語り口の杉本先生だが、実は学生とモノづくりへの熱い思いが秘められている。

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