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[情熱]主義

#02

人の幸せに役立つ研究であること。 工学部建築学科土木・環境専攻 嶋田 喜昭 人の幸せに役立つ研究であること。 工学部建築学科土木・環境専攻 嶋田 喜昭

「その研究の究極の目的は何だ」と問い続ける。

ある日、ペットについて研究したいと言い出した学生がいた。都市計画を専門とする嶋田 喜昭先生の研究室での一コマだ。興味のあることをテーマにしよう、と呼びかけてきた先生だったが、さすがに「ペット」ではあまりにも趣味や興味本位ではないかと思えた。しかし調べてみると、当時ペットに関して「ふん害」「鳴き声」などの近隣住民トラブルがあまりにも多いことが分かった。先生はペットについての研究が、現代市民社会における近隣トラブル解決に役立つかもしれないと考えた。犬の殺処分ゼロというドイツの事例も参考になるかもしれない。そんなことを思ううちに、このテーマについて学生とともに研究してみようと考えるようになった。学生からの一言が先生の研究テーマにもつながったのだ。

嶋田先生

また、めったに研究室に顔を出さない学生がいた。勉強も決して熱心とはいえない学生だった。そんな彼が名古屋市の「防犯モデル道路」制度について調べ始めた。小学生の身の安全を守るための防犯モデル道路の実効性や課題を探るというテーマだった。彼はその研究にのめり込み、名古屋市内の100か所近くのモデル道路を歩いて調査し、1件ごとにカルテを作成して問題点の洗い出しをした。彼は、我を忘れて研究にのめり込むほどこの研究テーマに没頭していた。やがて修士に進み、希望の就職先を手に入れた。
興味を原点として研究テーマに取り組む学生たちに、先生が伝えることは、常に一つだ。
「その研究の究極の目的は何だ」
たとえ興味からスタートした研究であっても、究極的にはその研究テーマは、人々の幸せにつながるのか、より良い暮らしに役立つのかどうか。それを常に自問し続けることが都市計画を学ぶ者の責任だ、と。

目的を持つこと、決してそれを諦めないこと。

嶋田先生の研究室は公務員をめざす者が多いことも特徴の一つだ。都市計画という分野が公務員の仕事に重なるせいもあるだろう。これまでにも多くの学生を国や自治体の役所などに送り出してきた。こうした実績を生かして、研究室には代々、先輩たちが書き加えてきた「公務員合格・虎の巻」もある。また、公務員試験は試験のタイプも日程もさまざまである。各省庁や自治体によって異なる試験日程をうまく組み合わせて受験することも、合格には欠かせない。嶋田先生の、学生一人ひとりの個性や志向に合わせた合格への的確な戦略アドバイスには定評がある。

嶋田先生

しかし、それだけで公務員試験の実績が上がるわけではない。先生が最も重視しているのは、学生の「気持ち」だ。戦い続ける気持ちをいかに持続させるか。
「公務員試験の勉強は4年次の夏まで続きます。“やっぱり公務員は諦めよう”と言い出す者も出てきます」
その気持ちを鎮め、あらためて当初の目標をもう一度思い出させる。
先生の中では、目標を持つこと、将来のビジョンを描くことが何よりも大切なのだ。いったん胸に抱いた目的を容易に諦めるな、と。目標があるから頑張れる。続けられる。そのことを忘れるな、と先生は口を酸っぱくして言う。
その目標に対する「粘り」、諦めない忍耐力は、研究を通じて培われる。たとえ答えが見つからなくても、データがなくて先へ進めないときでも、先生は「諦めるな」と言い続ける。問題にぶつかったとき、どうするのか? すぐ音を上げるのではなく、何でもいいからもがいてみよう、やってみよう、考えてみよう。もう一つ別の方法を考えてみよう。それをしないで諦めるのは、やっていないことと何も変わらない。「やってみよう」、その強い気持ちこそが、大学生活4年間で手にすることができる、かけがえのない財産になる。

“縁”が導いた、教育への熱い思い。

嶋田先生は、都市計画や交通に関する専門家であり、名古屋市、豊田市、国土交通省などの要請でさまざまな会議やプロジェクトに参加し、提言を行っている。こうした取り組みに学生たちを引っ張り出す。
都市計画をはじめとして工学とは、すべて「実学」である、と思う。そして、すべての学びが社会に直結していることを学生たちに体験として伝えたい。つまり、実学とは社会の今、そして未来を問い続けることだから。はじめは渋々先生のプロジェクトに付いてきた学生の目が、ある時、輝き始める。社会の今、そして未来とつながっている実感が、学生の研究意欲を喚起する。

嶋田先生

かつて、嶋田先生を「都市計画」の分野に導いてくれた大学の指導教員がいた。その恩師の導きもあって、先生は都市計画に携わるようになったのだが、その奥の深さ、いや、一筋縄ではいかないややこしさに困惑したこともある。さまざまな課題を前にして、各自治体の思惑などが錯綜する。決して先生の思い通りにはならない。思い描いた美しい都市の姿など、実現できそうもないと落胆もした。しかし、その都度、恩師はさまざまなアドバイスをくれた。気がつけば、恩師との付き合いは20年を超えていた。大同大学に赴任してからも、折に触れて、心に残る言葉を投げかけてくれた。
「それは、“縁”だと思うのです」
教員が学生を思う気持ち、常に心に留めて、その成長を祈る気持ち。それは、“縁”を大切にする気持ちだ。学生たちの指導に力を注ぐことも、就職や公務員試験の熱意に満ちたサポートも、誰かに「させられている」のではない。
教員と学生との“縁”は、未来へつながる「絆」だ。
かつて嶋田先生の恩師もまた、そのような気持ちで先生と接していたのだろうか?
その恩師がいつも言っていた言葉が忘れられない。
「20年後、30年後に役立つことをやれ」
学生たちの研究が、そして就職が、いつかこの社会に大きな花を咲かせることを嶋田先生は期待している。
そして、卒業した彼らが、笑顔で嶋田先生の研究室を訪れることを楽しみにしながら。

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