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[情熱]主義

#01

120%の情熱で建築に向き合え。 工学部建築学科建築専攻・インテアリアデザイン専攻 米澤 隆 120%の情熱で建築に向き合え。 工学部建築学科建築専攻・インテアリアデザイン専攻 米澤 隆

より良いものをめざす120%の背伸びが、成長につながる。

「常に背伸びをしよう」と、米澤 隆先生は学生たちに投げかける。「自分の持っている力の120%をめざせ」と。だから、いつも先生が学生たちに与える課題や問いかけは、学生の持っている能力を見極めた上で、その120%を出すことを要求する。100%では現状維持、あるいは衰退につながりかねない。なぜ、120%を出し続けなければならないのか?
先生は、「建築家は長距離ランナーに似ている」と言う。著名な建築家には、70歳を超えてなお精力的に仕事をこなし、新作を社会に問い続ける人も珍しくない。「長い時間をかけて走り続けるための体力や、今よりもっと良いものをめざす情熱を、学生時代の今、身につけなくてどうするんだ」と、先生は言い続ける。

失敗を認める勇気は、成功へのプロセス。

卒業設計では、10月くらいから仮の模型づくりなどが始まる。先生、あるいは仲間たち、先輩の院生と問題点はないか? ここは修正すべきではないか? あるいは研究の進め方に問題はなかったのか? さまざまな議論を繰り返す。厳しく、率直な意見が出る。時には、すべてをゼロに戻すことも少なくない。
「失敗であると認める勇気」
と、先生は言う。
住宅設計の場合なら、施主にとって30年、40年と暮らし続けるための家、何千万円ものお金をつぎ込んでつくられるものに対して、妥協はあり得ない。常により良いものをめざすことが求められる。ゼロに戻ることはたとえ大変であっても、それが成功へのプロセスであり、施主や社会に対する誠意である以上、先生から安易にOKを出すことはあり得ない。それが学生を社会に送り出すための先生の使命であり、責任であると考えている。そして必要としてくれる人のために妥協しないことは、建築を志す者にとっての責任でもあるのだから。

人とのつながり、社会とのつながりがなくては、建築はできない。

こんなことがあった。今年の「せんだいデザインリーグ2018 卒業設計日本⼀決定戦」に出展した学生のことだ。
「先生、もう出展するのは、やめようと思う」と、彼は言い出したのだ。「卒業設計日本一決定戦」には、日本全国の建築系の学科から300~400点の応募があり、熾烈な競争が予想される。みんなからの期待も大きくプレッシャーも計り知れない。加えて、巨大な模型を輸送するための送料も相当な額になる。そこまでして出展すべきか、と自信を失いかけたのかもしれない。しかしそれを知った上で、先生はあえて彼にこんなことを言った。

米澤先生

「君の卒業設計には、その制作に協力した多くの後輩たちや先輩、共に頑張ってきた同じ研究室の仲間たち、僕の指導も含めて、みんなの労力と思いが込められている。そういったものを引き受けて頑張らなければならないのも建築家の大切な職能の1つだ」
先生があえてその学生に伝えた思いには、もう一つの意味がある。先生は、建築にとって重要なのは、「社会とのつながり」であると考えている。それはつまり、「人と人とのつながり」である。建築は、たった一人の孤独な作業ではない。多くの人々の協力や理解、支えなくしては成し遂げられない。社会とのつながりの第一歩は、まさに研究室での仲間たちとのつながりからだ。そのつながりが、建築を生み出す重要な要素と言ってもいい。
その学生は先生の言葉に目覚めたのか、最後までやりきる、と決意を先生に伝えた。卒業設計の模型を「卒業設計日本一決定戦」が開催される仙台市に送るタイムリミット、最後の1時間まで、仲間たちは決して手を抜くことなく彼を支え続けた。
「仲間たちとのつながりを持つこととは別に、大同大学には社会とのつながりを持つ独自の教育システムとして、“D-Learning”があります。これは、実際に家を建てようとしている施主と直接、要望や予算などを聞き、また敷地や周辺環境の調査などをした上で実際の設計に取り組むというものです」
実際に施主から教科書で学んだこととは異なる建築への考えを聞くことは、教科書からの学びだけでは捉えきることができない現実、絶対的な正解がない現実があることを知る。これこそが「実学教育」であると、米澤先生は言う。

次世代に語り継ぐもの。人を育てること。そして、建築。

単に良い就職先を見つけてやることだけが米澤先生にとっての指導ではない。良い成績を取らせることだけでもない。さまざまな体験を通して感じたこと、思ったことを言葉に置き換え、知性として他の人と共有すること。そして社会とのつながりを実感し、これからの時代に生きる知恵を身につけること。そのプロセスをサポートすることが米澤先生にとっての指導であり、使命なのだ。多くの学生たちに支えられて設計や模型制作に取り組んだことも、建築の社会性を知るきっかけだったはずだ。
先生は学生と教員は、上下の関係ではなく、また教える、教えられるだけの関係でもないと言う。むしろ「同志」だ。対等な立場で語り合い、議論し、建築家としての同じ志を持って、お互いにより良い建築、より良い社会のあり方を探究していく。ただ教えてもらうことをひたすら待っているだけ、与えられた課題をこなしているだけの学生にはなってほしくない。
現代という社会に自分が生きているということから抱く問題意識や価値観を大切にし、自分たちの世代ならではのテーマを見つけ、それを先生にぶつけてほしい。そこには将来先生が取り組んだことを受け継いでほしい、という次世代への思いがある。先生が学んだこと、また生きてきた証しを次世代に伝えるために人を育てているのかもしれないと、米澤先生は思う。
米澤先生は、今日も120%の情熱で学生と向き合っている。

米澤先生
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