大きなニュースやイベントの特集ページです.日々のニュースはこちら



0327安曇野

特集:2023年度の卒業研究発表会  ~自分の考えを伝えるということ~

ここでは今年の卒論要旨7件を紹介します.要旨とは研究の概要をA4-1枚にまとめること.中でも緒言は,研究の背景・課題・ねらい・目的などが詰まった数行ですが,これほど簡潔かつ論理的な文章はないでしょう.田中研究室でも,要旨の執筆には何度も何度も読み直して修正します.
ねらいと目的は何が違うか? どんなアプローチで取り組んだのか? 得られる結果から何を見出すのか.
このような論旨が,順序良くかつ滞りなく流れることが必要で,簡潔に書くためにはまずキーワードを並べてアウトラインを考えます.
以下は卒研生が書いた緒言です.より詳しく知りたいテーマは研究のページをご覧下さい.
   ...研究テーマのページはこちら

Al-Cu共晶単一組織の合成速度および電気抵抗率の変化

EV に代表される民生電動機器の普及にともない,通電材である銅・アルミニウムの接点部が増加している.Al/Cu の接合では,母材よりも電気抵抗が高いとされるAl2Cu(θ)などの金属間化合物(IMC)の形成を抑制する 必要がある.一般にAl/Cuの接合部は多種の IMC が混在した複雑な組織となり,個々の接合組織の電気的特性は知られていない.接点材への使用を視野に入れるため,本研究では IMCの中でもαAl/θ(共晶組織)に注目した.共晶組織は縞状に形成され,化合物が少ないことから最も電気抵抗が低いと考えられる.そこで共晶温度直上において,純 Al と純 Cu から共晶単一組織の試料を作製し,その合成速度および電気抵抗率の変化を調査し両者の関係性を明らかにした.

熱電対による金属液相の検出とレーザ加熱装置への応用

近年レーザ加熱はさまざまな熱加工に適用されつつあるが,集光ビーム照射による超急加熱であるため,一般に加工点の温度制御は困難である.切断や溶接ではあまり問題にならないが,局所の異材接合やろう付けでは,加工中の液相の量や表面張力を適正化する必要がある.液相が発生すると,潜熱を吸収して標準物質との間に温度差(示差熱)が発生する.そこで本研究では,まずAl/Cuの微小試料を対象に,熱電対による急加熱時の液相検出を試みた.さらに実際のレーザ加熱装置における機器仕様を検討し,示差熱原理を応用した測温システム構築にむけて,被覆熱電対による板材の加熱特性評価を行った.
   ...実験装置のページはこちら

圧粉成形したAg-Sn系接点材料の内部酸化挙動

近年では電気部品が多様化するとともに,マイクロ スイッチなど接点部の小型化も進んでいる.これに対応する方法として,レーザ加工技術が挙げられる.微小スポットに集光可能であり,小規模での加工が可能なため,大量生産に適している.接点材は導電性が良いAgを使っており,酸化物粒子を分散させることで強度の向上やスパークを抑制している.酸化物は内部酸化により形成されているが,レーザ加工では急熱急冷され,酸化物がどのような分布と量で形成されるか不明であるそこでレーザ加工によるSn酸化物の均一微細分散を目指す.
本研究の目的は Ag/Sn混合粉末圧粉体の内部酸化挙動を明らかにする.また接点部をレーザ加熱によるSn酸化物粒子の均一化を試みる.

累積加熱により異なる硬さ変化を示す工具鋼の微視組織解析

レーザー積層造形法は溶着時に下層部が加熱と冷却を繰り返すことで, 積層のたびに組織が変化する. 既存研究では金型用鋼SKD61とその改良材LCSを対象に,積層造形に特有の累積的な熱影響を再現した.加熱後の試料はSKD61が820℃, LCSはより低温の700℃で硬さが大幅に低下する異なった挙動を示したが,その組織的要因は不明な点が多い.本実験では,累積加熱により変化する生地組織や炭化物など両者の差を組織学的に検討した.

累積加熱による軸受鋼SUJ2の炭化物球状化の試み

軸受鋼 SUJ2は,多段階の熱処理により炭化物(M3C)を球状化して使われる . 球状化熱処理はγ粒界の初析M3Cを固溶させ,ラメラ―状の共析M3Cを分断し,さらに長時間加熱により球状化させる.最近金型に用いられる工具鋼では積層造形による補修が可能になっているが,軸受には積層造形は用いられていない.積層造形は高温で何層も 積層するため,下層部は上層部からの熱影響を受けることになり,炭化物を球状化させることが難しいためである.
本研究では積層時の熱影響を利用してSUJ2の炭化物を球状化できなかと考え,積層造形を模擬的な累積加熱による炭化物の球状化の可能性を探った.

線材を用いたCu/Cu-Ni/Cu複合抵抗材のレーザ造形と電気抵抗

インバータ等で電流検出に用いられるシャント抵抗は,2枚のCu基板とCu-Ni系合金板の端面どうしを電子ビーム溶接して製造されている.Cu-Ni系合金では電気抵抗や抵抗温度係数がNi濃度に大きく依存するため,抵抗値の安定が必要な抵抗材では接合部周辺の Ni 希釈を抑制した加工法が必要である.また,小規模で加工が可能なレーザ加工に置き換えると製造工程の迅速化できると考える.そこで本研究ではワイヤ供給式のレーザ造形法でCu/Cu-Ni/Cu複合抵抗材を作製し,溶着界面のNi希釈と電気抵抗特性との関係を調査した.

Cu-Ni-Si合金の時効析出にともなうレーザ加熱特性の変化

近年,レーザによる3D積層造形技術が急速に発達し,光吸収率が小さく, 造形が困難とされていた銅(Cu)やCu合金も添加元素により改善することが知られている.Cu-Ni-Si合金(コルソン合金,以下C合金)は代表的な高強度Cu合金であるが,積層造形された例は見当たらない.C合金は通常,溶体化時効した状態(ピーク時効)で供給され,Ni2Siの析出により硬さや引張強さに優れるが,レーザ等によ る溶融凝固のままでは必要な強度特性が得られないことが課題となっている.
Ni2Si析出は固溶Ni濃度の減少をともない電気抵抗を低下させるが,光吸収率への影響は報告されておらず,レーザでの加熱特性もほとんど知られていない.そこで本研究では,溶体化状態および時効処理したC合金の抵抗率と光吸収率を調査した.