酸化物半導体ショットキーダイオードの特性向上に関する研究
酸化亜鉛はバンドギャップ3.4 eV のII-VI族の酸化物半導体であり、薄膜は透明導電膜、ナノ結晶はガスセンサなどへの応用が見込まれています。しかし、酸化亜鉛単結晶については、大型の単結晶を育成する技術が確立されているにも関わらずp型伝導が得られないために利用が進んでいません。
一方、酸化亜鉛の優れた物性を利用する方法として、ショットキーダイオードへの応用(例えば紫外線センサ)が有効であると考えられています(図1)。
一般に、良好な特性(高ブレークダウン電圧、低リーク電流)のショットキー接触を作製するためには急峻な金属-半導体界面の形成が不可欠ですが、酸化亜鉛については、①化学的な表面処理方法、②熱処理による表面清浄化に関する知見が依然として不足しています。①は真空装置に入れる前の洗浄処理として、②は真空装置中で金属膜を形成する前のクリーニング処理として不可欠です。
炭素や水分子の残留、表面の非晶質層はショットキーダイオードの特性に大きな影響を与えるため、本研究では特に②に着目して熱処理が酸化亜鉛の表面原子配列に与える影響について調べています。表面原子配列の解析には反射高速電子回折(RHEED)を用います。RHEED強度の動力学的解析の結果、酸化亜鉛の極性表面の識別が可能であることを最近明らかにしており、表面原子層の構造緩和についても解析を進めています。
図1 ショットキーダイオードの概念図
RHEED-AESを用いた表面構造解析法の開発
本研究課題は反射高速電子回折(RHEED)法とオージェ電子分光(AES)法を組み合わせ、RHEEDの入射電子を結晶表面に照射した際に表面近傍に形成される入射電子波動場と励起されるオージェ電子強度異常との関係を解明し、それを応用した新たな分析法の開発と応用を目指しています。一般にRHEEDは結晶表面や薄膜成長の評価に用いられますが、ここでは入射電子が結晶表面近傍で多数の反射回折波を生み、それらが互いに干渉し合うことで、ある種の定在波を形成することに注目します。
特に表面波共鳴条件下では表面に局在する強い電子定在波が形成されます。そのような電子密度分布の強い場所が原子列上に乗れば、その原子列は強く励起されるため、その原子列からのオージェ電子強度が増大することが期待されます。そこで入射電子の視斜角を変えながらオージェ電子強度変化(これをBRAESプロファイルと名付ける)を測定し、それを動力学的計算から求めた波動場分布と比較することにより、波動場の形成状態を確認します。このような研究を様々な表面系に適用し、波動場の振る舞いを明らかにできれば、逆に表面に形成される波動場を利用して、吸着サイトの解析や周期的表面励起への応用展開が期待されます。
一例として、Si(001)2x1表面に形成される入射電子波動場をグレースケールで図2に示します。10keVの入射電子を[110]および[1-10]方位で視斜角3.4°で入射した場合、表面には強く局在した入射電子密度分布が形成されることがわかります。
図2 Si(001)2x1表面に形成された入射電子波動場の強度分布
炭素構造体の作成と評価
プラズマCVD法により炭素構造体の形成を目指しています。
これまで金属薄膜基板上やシリコン基板上に針状、ブロッコリー状、球状など様々な形態の炭素構造体の形成に成功しています。形成された構造は走査電子顕微鏡、ラマン分光、透過電子顕微鏡等を用いて形態のみならず結晶構造まで評価を行っています。一例として、図3に示す写真はW探針上にカーボンナノウォールが形成されたものであり、プラズマ強度を変化させると成長速度の変化が観察されます。この探針を用いた電界放射実験において、カーボンナノウォールの形成が電界放射開始電圧や電子電流の安定性にどのような影響を与えるか調べます。
炭素構造体にはカーボンナノチューブやグラフェンなどナノテク材料として注目されている材料がありますが、その他にも有望な構造体が存在します。本研究でその形成条件の解明と構造評価を行っています。
図3 W深針に形成されたカーボンナノウォール