去る9月8日、地球に無事帰還するはずのNASA(アメリカ航空宇宙局)探査機が地上に激突した。パラシュートが開かなかったからである。パラシュートは目的地に向かって飛行方向が変えられるパラセール用のものであった。
ヘリコプターから伸びた長いフックを使って、滑空するパラシュートに取り付けられた探査機を空中で回収する計画であった。ヘリの操縦士は映画「ダイ・ハード2」や「パトリオット・ゲーム」のスタント操縦士のK.フレミングさんと空軍のスペシャリスト達である。
彼らがヘリの中で見守る目前を直径1.5m、重さ190kgの探査機が時速300kmで通り過ぎ、ユタ州の砂漠に激突した。頑丈につくられた探査カプセルは砂にめり込み、大破しなかったものの、変形し中のサンプル収集板も損傷したらしい。現在慎重に解体中である。
この探査機は3年前に打上げられ、太陽と地球の引力が釣り合う場所に850日間止まって、太陽から放出される粒子を補足し、地球に帰ってきた。最後に大トラブルが発生したわけであった。
がっかりしたのはフレミングさんばかりではない、打上げまでの準備に5年以上をかけ、3年間探査機の帰還を待ちこがれていた研究者達の気持ちを考えると、胸が締め付けられる思いがする。
昨年2月のスペースシャトル・コロンビア号事故では私たちが3年かけて準備した実験試料が失われるといった悲しい事件があった。亡くなった7人の宇宙飛行士のことを想うと、不平を言うことはできなかった。今回のトラブルは無人探査機であったのが幸いであった。
長い間このプロジェクトに賭けてきた研究者や結果を心待ちにしてきた人々のためにも、壊れた探査機から役に立つ試料が回収されることを願っている。
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