これは向井万起男さんの最近の著書のタイトルである。万起男さんは宇宙飛行士の向井千秋さんのご亭主である。ハードボイルドとは固ゆでの卵からきたことばで、非情を意味している。
千秋さんはほとんどアメリカのヒューストン暮らしだ。彼は東京暮らし。1986年に結婚以来、一緒に暮らした期間はとても短い。彼は彼女が世界中どこにいても、毎晩必ず電話をするという。
なにしろ、彼は「君のために生きている」と公言してはばからないのだ。
そのことは、万起男さんの処女作「君について行こう−女房は宇宙をめざした」(1995年、講談社)の中で述べている。
この本の中で、彼は「女房のスペースシャトル打上げの前夜、一人で泣いていた」と恥ずかしげもなく書いている。一方、彼は慶応大学医学部の助教授として、学生にはめっぽう厳しく、教員と学生の関係は教室の中で、講義を通じて以上のものは無用であると言い切っている。
彼にパーティの席で会ったとき、この本について質問した。「面白くするために、出版社の人が相当に手を加えたのでしょうか?」「一字一句直させません。私の主義です」と彼は即座に答えた。出版社泣かせの人であると思った。
最近、彼は「ハードボイルドに生きるのだ」(講談社)を出版した。本当は、俺はニヒルでクールな男なのだと、開き直って見せたが、ちっともそうでないのがこの本である。
元来、マスコミに登場する彼のイメージは、女房のことを想って、泣き明かしている男なのだ。しかし、実際にはハードボイルドな男が、3枚目を演じているだけかも知れない。謎は深まる一方である。
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