大同大学

『月刊なごや』2001年5月号より

2回の宇宙飛行を体験した向井千秋さんのポスターには「仕事場は宇宙」と書かれている。ポスターの中の千秋さんは空中で両手を広げ、にっこり笑っている。無重力空間では、空を飛ぶように空中遊泳ができる。
空中遊泳は宇宙ばかりでなく、航空機の中でもできる。ただし、普通の飛行では無理である。斜め上に放ったボールの軌跡のように、航空機を弾道飛行させると、最高の高さに到達する前後の短時間、航空機の中は無重力になる。この短時間の無重力を利用して実験をしたり、宇宙飛行士の訓練が行われている。
我が国ではダイヤモンドエアサービス社が、親会社の三菱重工製の双発ビジネスジェット機MU-300を使って、20秒間の無重力実験を事業として行っている。念願かなってこのジェット機で無重力体験ができた。
高度6,000メートルに達する弾道飛行は、遠州灘の海上で行われた。1時間の間に10回の弾道飛行が繰り返され、最初は胃の中のものが食道に上がってくるのを感じた。急に重力がなくなると、胃を支えている筋肉の力によって胃が押し上げられて吐き気をもよおすのだろう。
何度も弾道飛行を繰り返えすうちに、吐き気を押さえるコツが分かってきて、余裕がでてきた。よし、千秋さんの「仕事場は宇宙」のポーズをとってやろうと最後の10回目の弾道飛行の時、両手を広げてにっこり笑ったのがこの写真である。
笑うどころか、緊張のあまり、何と恐ろしい顔をしているではないか。次の機会にはにっこり笑いたいものである。

三菱重工製ジェット機MU-300の中で浮遊する筆者、笑ったつもりがこわばった顔をしている（毎日新聞社提供）

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