大同大学

『月刊なごや』2004年12月号より

久しぶりに向井千秋さんと個人ゼミを行った。場所は引越しが終わったJAXA（宇宙航空研究開発機構）の東京事務所であった。1986年、彼女を含む3人の宇宙飛行士候補者が選ばれた頃、私は彼らと英語で宇宙実験のゼミを行っていた。私の役割はチューター、つまり先生役であった。
向井千秋さんはお医者さん、医学や生物学については詳しいが、材料や物理学になると私の領域だ。彼女は近々フランス・シュトラスブールの国際宇宙大学で客員教授として講義を開始する。その手始めとして、11月19日に過去の宇宙実験について特別講義を行う予定である。
講義内容をまとめてゆくに従って沢山の疑問がでてきた。千秋さんは決して手を抜かない人である。最近、ブームになっているナノテクと宇宙実験の関係に疑問を持ち、考え込んだ結果、私に教えて欲しいとアメリカからメールを送ってきた。幸い日本経由でフランスへ移動するというので、東京で16年振りの個人ゼミをやることになった。
私はナノテクについては自信がある。しかし、彼女の質問は一見素朴なものに見えたが、実は核心を突いた難問であった。原子を1個1個積み上げて新物質を作り出すナノテクを使えば、宇宙実験は不要になるのではないかという疑問であった。私は考え込んでしまった。私が長い間考えてきたテーマでもあったからである。
2時間近く、議論をしたが結論はでず、続きは来年シュトラスブールでやろうということになった。ノートパソコンを入れた車付の旅行カバンを引っ張って出てゆく彼女に別れを告げた。千秋さんはノート型にしては結構重いコンピュータをもって世界中を移動しているらしい。

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