Q and  A 

質問 20   (1.2008)

「ボイル・シャルルの法則」を習いましたが、「シャルル・ボイルの法則」と言ってはいけないのですか? ぼくには、そのほうが言いやすいので良いと思うのですが。
 

回答

うーん・・・そうでしょうかね?
「ボイル・シャルル」が言いにくいとは、感じませんが・・・

この法則が、ボイルの法則とシャルルの法則を合併したものであることは授業で言いました。
ボイルの法則(1662年)のほうがシャルルの法則(1787年)より早く発見されたからという理由で、順番が決まっているのでしょう。

シャルルの法則はゲイ・リュサックの法則とも呼ばれます。これについては、面白い話があります。

シャルルはフランス人です。気体の体積の熱膨張による増分が上昇する温度幅に比例することを最初に見出したのは確かにシャルルでした。しかし、シャルルはこのことを論文等で公表することはしなかった。実験の質も量も十分とはいえなかった、という事情からかもしれません。その後同じフランス人のゲイ・リュサックは、たいへん綿密な実験をおこない次のことを明らかにします。

「どんな気体でも、温度を1度上げると、0℃の体積の1/273(273分の1)だけ、体積が膨張する」

これは「シャルルの法則」(あるいは、「ゲイ・リュサックの法則」)として良く知られている、物理・化学の基本中の基本の法則です。ついでに、もうすこし話を膨らませると、この法則の発見は、絶対温度の概念が導かれるきっかけとなりました(絶対零度が、―273℃であることに注意)。

ゲイ・リュサックは自分の実験結果と結論を論文にして発表しています。大変良心的なひとだったようで、その論文にシャルルの未発表である先行実験のことを引用しました。

この経緯からすれば、「ゲイ・リュサックの法則」の呼び名が、現在もっと優勢であっても良いような気がしますね。実際は圧倒的に「シャルル」の勝ちです。

そのあたりの事情は・・・?

スコットランド人の物理学者(タイト)が著した教科書が決定的な役割を果たしました。タイトは自国スコットランドが大好きなひとでした。スコットランド出身でイギリスの王様になったのは二人で、ともにチャールズという名前だったそうです。チャールズとシャルルは、ともにCharlesで英語読みかフランス語読みかの違いです。タイトは、自著の教科書で「チャールズの法則」を採用するわけです。もちろん、シャルルがフランス人であることは、百も承知・・
ゲイ・リュサックでは、イギリス人じゃないことはすぐわかる(ようです)。

この教科書がきっかけで英語圏では「Charlesの法則」が広まって現在に至っている、ということです。日本では「シャルル」と表記・音読していますが、イギリスでは「チャールズ」と読んでいるのでしょうね。イギリス人の多くの学生は、この「チャールズ」を自国の学者だと思っているようです。タイトの思惑どおり・・ですね。ちなみに、ボイルは生粋の英国人です。

シャルル、ゲイ・リュサック、タイトについての上の記述は以下の書籍を参考にしました。

K. J. Laidler;  “ The World of Physical Chemistry”  (1992)  Oxford Univ. Press.
 

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