
第2回ディスカバリー号の飛行(2006年)

RTF‐2(ディスカバリー号)の打ち上げ
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2006年7月17日、第2回の安全確認飛行を終えたディスカバリー号は打ち上げ基地に無事帰還しました。この飛行は日本の新聞やテレビなどのマスメディアにほとんど取り上げられることはありませんでした。昨年の野口飛行士搭乗のディスカバリー号再開飛行1号に比べると大きな違いに驚きました。本当にあの飛行は大騒ぎでした。その違い何であったのでしょうか。スペースシャトルはNASA(アメリカ航空宇宙局)にとって唯一の宇宙飛行士と宇宙ステーションへの資材輸送手段です。スペースシャトルの初飛行は1981年のコロンビア号でした。NASAは3機のスペースシャトルを保有していますが、2010年までに全てが退役予定です。2010年前に国際宇宙ステーションを完成させなければなりません。それまでにあと15回の飛行が必要です。
2003年、コロンビア号が空中分解事故を起こし、7人の宇宙飛行士が亡くなりました。事故の直接原因は打ち上げ時に燃料タンク外壁の断熱材が剥れて主翼前縁部の炭素複合材料製耐熱タイルに衝突して、ひび割れが発生したことによるものでした。打ち上げ時の写真分析から、何かが主翼に衝突したことが分かっていました。現場からは、空軍に依頼してコロラド州に設置されている高性能望遠鏡による主翼の検査をするべきとの声がありました。しかし、NASA幹部は現場の声を押さえて、「問題はない」との決定を行い、飛行は続行され、帰還のための大気圏突入時に空中分解しました。問題はなしとの意思決定はNASAの伝統的な組織文化によるものであって、NASAは組織文化を変えない限り、必ず事故は再発すると事故調査報告は述べています。コロンビア号の事故調査委員会は多くの改善項目を示して、NASAはそれを全面的に受け入れることに同意しました。事故から2年半、NASAは改善項目の達成に最大の努力をしたと思われますが、断熱材はく離防止については、十分でありませんでした。時間切れを迎え、スペースシャトルの再飛行(RTF; return to flight)が決定されました。野口飛行士が登場した2005年のディスカバリー号飛行が飛行再開1号機(RTF1)であり、1年後の飛行がRTF2号機でした。2号機もディスカバリー号が使われました。2号機の打ち上げ予定日が迫っていましたが、依然として燃料タンクの断熱材はく離を完全に抑える見込みはありませんでした。
NASAグリフフィン長官は安全責任者を含む2名の幹部の打上げ反対意見を押さえてこんで、RTF2号機の7月打上げを決定しました。NASAの安全思想は大幅に後退しました。事故調査報告が指摘したNASAのcan do(なせばなる)文化が早くも息を吹き返したのだと思います。断熱材のポリエステル樹脂層は2液を混合して化学反応させながら吹きつけます。通常の吹きつけと異なるのは、原料に高圧チッ素ガスを混合して吹付ける点です。吹付けガンから噴出された原料中のガスが膨張して気泡となって断熱効果を高めることになります。タンクの緩やかな曲面上に吹付けたポリエステル樹脂は比較的しっかりと付着しますが、配管部や凹凸のある部分には自動吹付け機によって断熱層を吹付けることができないので、手作業によって断熱材がとりつけらます。 野口飛行士が搭乗したRTF1号機の打上げ時に脱落したのは、タンク表面の気流を整えるために設置されたパルランプとよばれる部分からの脱落でした。RTF2ではこの気流整流部を除き、打上げ時のパワーを70%程度に絞り込んで、振動を抑えると同時に大気層脱出までの加速度を落として、万が一脱落して、オービタと衝突しても衝突速度を抑えることによってダメージを少なくする方策をとることになりました。 スペースシャトルの飛行は国際宇宙ステーション建設のために行われています。このためアメリカ人飛行士だけではなく、国際宇宙ステーション計画に参加している世界各国の宇宙機関の飛行士が参加しています。RTF‐1には野口飛行士、RTF‐2にはESA(ヨーロッパ宇宙機関)のドイツ人ライター飛行士が搭乗しました。 RTF‐1の飛行後、約1年間さらなる改良が行われましたが、RTF‐2の燃料タンクの断熱材脱落防止は十分でありませんでした。NASAは2010年にスペースシャトルを退役させることを決定しました。それまでに国際宇宙ステーションを完成させなければなりません。それが、アメリカの公約であり、それができなければNASAの面子は丸つぶれです。 2名の幹部の反対意見はNASAのホームページに掲載され、

国際宇宙ステーションにドッキングした ディスカバリー号(RTF‐2)(NASA提供)
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少数意見として紹介されました。NASAの意思決定は多数決ではありません。関係者から十分に意見を聞いたうえで、トップが決定する仕組みになっています。 RTF-2の打上げ時の断熱材脱落はありました。しかし、それはRTF-1に比べて少ないものでありました。確かに改良は進んだと思われます。飛行後の検査によると、断熱タイルの傷もコロンビア号事故以前に比べてはるかに小さなものでした。長官は誇らしげに、2回のRFTは成功であったので、今後は通常の運行にもどし、2010年前に国際宇宙ステーションを完成させると宣言しました。