地盤の超音波締固めに関する基礎実験

                                                  92C046 小宮 正行

                                                  95C037 後藤 邦泰

                                                  95C039 酒井 正利

 1.はじめに

1964年の新潟地震で発生した砂地盤の液状化は、鉄筋コンクリート構造物の転倒、落橋などの大きな震害をもたらした。これを契機として研究者の液状化に対する関心が高まり、以降さまざまな研究がなされてきた。近年では1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)において臨海部の埋立地盤を中心に大規模な液状化が発生し、護岸や港湾施設、その他構造物に甚大な被害を与えた。

これら液状化の対策として地盤の改良工法が開発され、現在SCP工法、薬液注入工法など数多くの工法が実用されている。しかし従来の工法には騒音、振動、土壌汚染など周辺環境に与える影響が大きいという問題がある。そこで軟弱砂地盤の改良工法の一つとして、周辺環境への影響が極めて少なくまた施工時間・コスト面にも優れた、超音波を利用した工法が提案されている。この工法は超音波を水中に照射することにより発生する音圧とキャビテーション現象を利用し砂粒子を動かす。つまり地盤に超音波を照射することにより意図的に液状化を起こし、密度を増加させて締固めるものである。

 2.水槽実験・音圧測定

1)実験目的

超音波を用いた締固めの主な要因となっている伝播物質である水について、超音波を照射したときの音圧を測定し、水中での圧力の分布を調べ、どのような減衰特性が見られるかを確認する。

2)実験方法

超音波発振子の種類は、出力が600Wで周波数が20、28、40kHzの3種類、出力が1800Wで周波数が20kHzの計4種類を使用する。水は水道水を利用し、水槽には超音波の反射などの影響を少なくするためにベニヤ板を貼り付けてある。測定点は計90点とする。

3)実験結果・考察

『超音波は一般的に振幅が一定のとき、周波数の高いほうがエネルギーが大きい。反面、減衰しやすい。』という特性がある。しかし今回の実験の結果では、逆に周波数が低いほど圧力が小さくなった。減衰については40kHz以外では確認できる。出力で比べてみると1800Wのほうが600Wより音圧が大きいということが確認された。測定値は、測定日の水温の変化や、音圧計の設置位置のわずかな違いで大きく変わるので、今後は水温の調整等も考慮して、信頼性を高める必要がある。

3.水槽実験・沈下量測定

1)実験目的

水で飽和した砂地盤に超音波を照射し、人為的に液状化を引き起こす。そのときの地盤の締固め効果を確認する。また、そのときの音圧の変化を知るため、同時に音圧も測定する。

2)実験試料

水は水道水を使用する。実験試料は豊浦標準砂を用いる。この試料の物理的性質を知るために、土質学会の試験方法にもとずき、土粒子の密度、透水係数、最大・最小間隙比を測定した。

3)実験方法

実験は先に述べた実験装置と同じものを使用し、水槽に標準砂を入れる。砂層の相対密度は、入れる砂の量をはかり、水槽の体積と、最大・最小間隙比から計算して求める。超音波発振子は、過去の実験の結果から影響範囲の一番大きい20kHz−600Wとする。測定方法は超音波照射前に水槽上面から砂層表面までの距離をはかっておき、照射後の値と比較して沈下量を調べる。測定位置は発振子から15cm間隔で中央、左端、右端の3ラインの計30点。音圧を同時にはかるため、超音波発振面から10cmの距離で、深さが底から20cmの場所に音圧計をセットする。超音波の照射時間は3分とする。

4)実験結果・考察

超音波発振面に近いほど沈下量は大きく、1mぐらい離れると数値はかなり小さいものになった。同時に測定した音圧をみると、水のみの場合に比べて値は1/10以下になり、照射時間でみてみると最初の値から徐々に小さくなり、1分後には変化しなくなった。これは、超音波を照射することで液状化が起こり、超音波の主要な伝播物質である水が過剰間隙水圧によって上昇し少なくなったこと、また砂の沈下で砂粒子の結合力が強まったため、超音波の伝わりが少なくなったものと思われる。初期相対密度が20%近くだが、60%近くで実験を行うと沈下量は少なくなり、音圧も小さくなった。今後は、いかにエネルギーを減衰させず、効率よく効果を発揮させるかが問題である。

 4.三軸試験

1)実験目的

先に述べた室内試験(水槽実験)では側面方向から超音波を照射してきたが,拘束条件下での締固め効果については調べられていない。この実験では、5m以上の地中での超音波照射による締固め効果があることを調べるために、拘束条件を与えられる三軸セルに超音波発振装置を取り付けて効果を確かめたもので、実験装置及び実験結果について示す。

2)実験装置

拘束条件下での超音波照射を行うために、三軸室内上部に周波数28kHz(出力:45・60・70Wの3段階に切替可能)の超音波発振子を取りつけたものを作成した。発振子を図−4のように三軸セル上面に2個取り付け、三軸室内の水を通じて供試体に伝達する方法を取った。また取りつけられた三軸室内上部の質量が大きいため三軸室内に照射されるときの周波数は23kHzとなった。

3)実験方法

この実験は拘束条件下においても土粒子を動かすことができるかを調べるための基礎実験であるので標準砂によって供試体を作成した。供試体の作成は均一性の確保などに配慮して凍結法で作成した。φ35mmの供試体を三軸セル内に設置し、等方的に拘束圧をかけた。拘束圧は1kgfcm,2kgfcm,3kgfcmの3種類で行い、排水量が落ち着くまで(約30分)等方圧密を行った。その後、供試体上部に0.5kgfcm軸差応力を載荷し、超音波を5分間照射した。その際、照射による沈下量と排水量、及び軸差応力が0になるまでの時間を測定した。

4)実験結果・考察

超音波を照射すると短時間で沈下量、排水量とも一定になり、軸差応力も0になってくる。除荷時間(軸差応力が0になるまでの時間)は、初期相対密度、拘束圧に関わらず約4〜6秒であった。一方、沈下量、排水量とも一定値になる時間は除荷時間と同様に約4〜6秒であった。このことから、超音波を照射することによってくり返しせん断を受けた時と同様に、土粒子間のかみ合わせがはずれて“液状化”の現象が生じたものと考えられ、この液状化現象によって締固め効果が得られるものと考えられる。

密度の増加割合は、初期相対密度の低い方が高い方より大きくなり、拘束圧が小さいものより大きい方が高くなる。しかし、いずれのケースも超音波照射によって液状化を起こさない程度の相対密度にまで達していることがわかった。以上のことから次のことが明らかになった。

   1.初期相対密度が低いほうが、締固め効果(密度増加率)は大きくなる。

   2.拘束圧は大きいほうが締固め効果は大きくなる。

標準砂を用いた基礎実験であるため強度の増加、土粒子配列の変化、標準砂以外の一般的な土での締固め効果など不明な点が多くあるが、5mを越えるような地中でも超音波による締固めが可能であることが明らかになった。

〜参考文献〜

『超音波技術便覧』    日刊工業新聞社

『超音波技術』      東京大学出版会

『超音波とその使い方』  日刊工業新聞社

『土質基礎シリーズ 砂地盤の液状化』  技報堂出版株式会社