生産物にムダはなし!

スラグの完全リサイクルに光明


開 発 の 背 景

再利用が遅れる電気炉還元スラグに着目

資源化にトライ

 鋼の精錬時に発生する副産物・スラグ……通常においては産業廃棄物となるものだけに、その処理が製鋼各社では大きな課題とされてきました。すでに高炉スラグに関しては、高炉セメントなどの形で100%の有効利用が達成されていますが、電気炉において還元精錬時に発生する還元スラグに関しては、再利用が進んでいません。

なぜなら還元スラグは石灰分が多く含まれるために膨張反応を引き起こしやすく、

  1. そのままでは土木材料としては利用しにくい、

  2. また精錬する鋼種の違いによる成分格差が大きく、安定した品質が保持しにくい、

といった技術的課題が山積です。全国で約150万トン発生する還元スラグの処理に、各社とも苦慮していたのです。この問題に対し、一条の光を当てたのが、大同工業大学の桑山教授が行っていた「電気炉還元スラグの有効利用に関する基礎研究」でした。

 

コ ン セ プ ト

グループ内研究機関がその特性に着目

セメント代用品に

 土木工学の大家として知られる桑山教授は早くから、還元スラグの持つ特性に着目されていました。というのは、還元スラグの主成分はCaOで、セメントに比較的近い組成を持ち、形状も粉状であります。さらに重金属の含有量や溶出量に関しても基準値を超えるものはなく、従って十分にセメント代用材として利用可能と、桑山教授は考えたのです。

というのも土木関連業界には、大きな課題を抱えていました。それは社会基盤整備の過程で発生する大量の浚渫土や建設残土などの処理問題です。通常の浚渫土は非常に軟弱な土で、そのままでは盛土などの土木材料として活用することは不可能です。何らかの強化材料を添加しない限り、単なる廃棄物の山になってしまうのです。例えて言えば、名古屋港には木曾三川から流入する土砂などにより年間 300万mにおよぶ大量の浚渫土が発生しており、もはやそのストックスペースは限界に達しています。

この問題解決にあたり、同じく処理に苦慮する還元スラグに着目。いわば社会的な負の資産である両者を結合させることで、正の資産である土木材料を生み出すことが、今回の最大の目的となったのです。

 

 技 術 的 課 題

金属と土木双方向の発想と実証力を

フルに発揮して

  金属分野と土木分野の融合による、このプロジェクトの推進に当たっては、私自身も1年強の間、桑山先生の教室に研究員として参加し、さまざまな角度から基礎研究・実験を行う機会をいただきました。冒頭にも述べた化学成分、pH、含水比の測定に始まり粒度分布およびSEM観察、そして土質改良の室内試験と、綿密なデータの積み重ねを行ってきたのです。その結果、浚渫土単体と比べ、還元スラグを添加・混合したものは一軸圧縮強度が100倍以上にも達するというデータを得ることができたのです。

この間には、さまざまな苦労もありましたが、若い学生諸君の熱意と協力もあってこそ、乗り切れたと感謝しています。本研究については、当社が発起して鉄鋼・建設会社、教育機関の連係による「新土質改良材開発研究会」が発足し既に名古屋港を舞台に現地試験も完了しています。その試験結果からは、通常の土質改良に使われるセメント量の3〜4倍程度を投入することで、強度的にはセメントを上回るという確証が得られました。また、特性の異なる還元スラグの土質改良材としての能力を、簡単に評価できる方法も確立しました。

 

将 来 の 展 望

一企業の域を超えた公益型プロジェクト

その展開手法が鍵に

  もちろん今後も更なる技術的な追求を怠るわけにはいきません。その第一は、スラグ自体が従来は、あくまでも鋼の精錬時に発生する副産物に過ぎなかったため、これを商品化するには、スラグ自体の品質をも考えた製造体制が必要ということです。精錬時および精錬後における還元スラグ特性の制御方法のほか、品質保証体制の整備や貯蔵方法の検討、安定的な供給体制をいかに構築していくかなど、一企業の域を超えた問題も山積しています。「新土質改良材開発研究会」においても、「実用化検討委員会」を設置し、活発な検討を開始しました。その中でも、特殊鋼最大手の当社の技術力に対する期待は大きく、当社の動きが「技術スタンダード」になるものと自負しています。

 社会的にも、今回のプロジェクトが与えるインパクトは極めて大きいものがあります。浚渫土や建設残土、スラグを再資源化し、産業廃棄物を削減するという一義的効果に加え、セメント製造の際になされる天然資源の採取による自然破壊の低減効果も大。21世紀の自然環境保護への貢献度は極めて大きいと断言できます。

 


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金川 淳

大同特殊鋼(株)技術開発研究所主任研究員

E-mail
D3247@so.daido.co.jp

 


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